なぜ掃除で金運が上がると言われるのか|散らかった部屋が支出を増やす仕組み
部屋を片づけたところで通帳の数字は変わらないのでは——もっともな疑問です。由来の話をいったん脇に置いて、散らかった部屋が人の「選択」に何をするのかを、実験の結果から見ていきます。
「掃除をすると金運が上がる」は精神論なのか
開運の話には、必ず掃除が出てきます。当サイトでもその由来を書きました。
ただ、こう思ったことはないでしょうか。「部屋を片づけたところで、通帳の数字は変わらないのでは」と。
もっともな疑問です。そこでこの記事では、由来の話をいったん脇に置いて、散らかった部屋が人の「選択」に何をするのかを、実験の結果から見ていきます。
散らかった部屋にいる人は、違うものを選ぶ
ミネソタ大学のフォース(Vohs)らが2013年に『Psychological Science』誌で報告した実験があります。参加者を整った部屋と散らかった部屋に分けて、同じ課題をやってもらうというものです。
| 整った部屋にいた人 | 散らかった部屋にいた人 | |
|---|---|---|
| おやつの選択 | 健康的なほうを選んだ | そうでないほうを選びがち |
| 寄付 | 多く寄付した | 少なかった |
| 発想 | ふつうの案 | 創造的な案が多かった |
| 商品の好み | 「定番」と書かれたほうを選んだ | 「新登場」と書かれたほうを選んだ |
散らかった部屋が一方的に悪い、という話ではありません。創造性はむしろ散らかった部屋のほうが高く出ています。アイデアを出す作業なら、散らかった机のほうが向いているかもしれません。
ただ、お金の話に限っていえば、最後の一行が効いてきます。
散らかった部屋にいた人は、「新登場」と書かれたほうを選びました。新しいもの、まだ持っていないものに手が伸びる。これは、そのまま買い物の話です。
「持っているのに、また買う」が起きる理由
もうひとつ、実験を持ち出すまでもない話があります。
どこに何があるか分からない家では、同じものを二度買います。ハサミ、電池、輪ゴム、常備薬、黒い靴下。買った本人は「持っていない」と思っているので、これは記憶力の問題ですらありません。在庫が見えていないだけです。
一回あたりは数百円です。ただ、これが月に何度か起きていると、年間では無視できない額になります。しかも、買ったものはまた家のどこかに紛れて、次の二度買いの原因になります。
「払いの痛み」を、財布は肩代わりしてくれる
支出の話でもうひとつ知られているのが、「払いの痛み(pain of paying)」という考え方です。
プレレックとシメスター(Prelec & Simester)が2001年に報告した実験では、スポーツ観戦チケットの入札で、クレジットカードで払うと言われた人のほうが、現金で払うと言われた人より高い金額を提示しました。同じ商品、同じ人たちです。
理由はこう説明されています。現金は財布から減るのが目に見えるので「痛い」。カードや電子マネーはその痛みが薄い。痛みが薄いほど、人は多く払う。
ここで掃除の話に戻ります。財布の中が整理されていて、いま現金がいくらあるか把握している人は、払うたびに小さな痛みを受け取っています。レシートで膨らんだ財布を開けもしない人は、その痛みを感じる機会がありません。
散らかりは、決めることを増やす
もうひとつ。散らかった環境は、判断の回数を増やします。
探す。どけて置く。どこにしまうか考える。この小さな判断が一日に何十回も挟まると、夕方には決める力が残っていません。疲れた頭は、いちばん簡単な選択をします。それはたいてい「買う」「頼む」「後で考える」です。
片づけの効用は、片づいた景色そのものよりも、判断しなくてよくなることのほうにあるのかもしれません。
では、どこから片づけるか
支出という一点だけで見るなら、優先順位はかなりはっきりしています。
1. 財布
3分で終わります。レシートを出し、カードを並べ、お札の向きを揃える。払いの痛みを取り戻すという意味で、費用対効果が最も高い場所です。
2. 在庫が溜まる場所
洗面所の下、キッチンの引き出し、玄関の収納。二度買いはここから生まれます。全部出して並べるだけで、しばらく買わなくていいものが見つかります。
3. 冷蔵庫
食費は支出の中でも動かしやすい費目です。奥に何があるか見えていれば、それだけで買い物の量が変わります。
「金運」と呼ばれてきた理由
ここまで、由来の話はしていません。それでも、散らかった部屋にいる人は新しいものを選びやすく、在庫が見えなければ二度買いをし、財布が膨らんでいれば払いの痛みが薄れ、判断が多すぎれば夕方には決める力が尽きます。
これらは全部、独立した現象です。ただ、どれも同じ方向に効いています。
昔の人が実験をしたわけではないでしょう。それでも「整っている家の人はお金が残る」という観察は、繰り返されるうちに「掃除は金運に効く」という一言に圧縮されたのではないか——そう考えると、この言い伝えはずいぶん納得のいくものに見えてきます。
念のため書き添えると、上に挙げた研究はいずれも「掃除をすれば収入が増える」ことを示したものではありません。示されているのは、環境や払い方によって人の選択が変わるということです。
まとめ
- 整った部屋にいた人は健康的な選択をし、寄付も多かった。散らかった部屋にいた人は「新登場」を選んだ(Vohs et al. 2013)
- 在庫が見えないと二度買いが起きる。これは記憶力の問題ではない
- カード払いは現金より高い金額を提示させる。「払いの痛み」が薄れるため(Prelec & Simester 2001)
- 散らかりは判断の回数を増やし、夕方の決める力を削る
- 優先順位は 財布 → 在庫が溜まる場所 → 冷蔵庫
出典
- Vohs, K. D., Redden, J. P., & Rahinel, R. (2013). Physical Order Produces Healthy Choices, Generosity, and Conventionality, Whereas Disorder Produces Creativity. Psychological Science, 24(9). PubMed
- Prelec, D., & Simester, D. (2001). Always Leave Home Without It: A Further Investigation of the Credit-Card Effect on Willingness to Pay. Marketing Letters, 12, 5–12. Springer