収入が高い人ほど神社が好きなのはなぜか|経営者の8割というデータと3つの理由
平日の昼間、スーツ姿で境内を歩く人を見かけたことはありませんか。調査を見ると、寺社にもっとも足を運んでいる職業は会社役員・経営者でした。信心深いから、では説明になりません。理由になりそうな研究を3つ挙げます。
経営者の8割が、寺社に行っている
まず、思い込みではなくデータから始めます。
生活用品の調査会社プラネットが行った「お寺・神社に関する意識調査」で、職業別に寺社へ行く頻度を聞いた結果があります。
| 職業 | お寺・神社に行く(計) |
|---|---|
| 会社役員・経営者 | 80.0% |
| 定年退職者 | 76% |
| 会社員 | 68% |
| 自営業 | 67% |
| 公務員 | 66% |
| 無職 | 53% |
会社役員・経営者が、全職業のなかで最も多く寺社に足を運んでいます。最下位との差は27ポイント。誤差では説明できない開きです。
ではなぜ、意思決定を仕事にしている人ほど、神社へ行くのでしょうか。
「信心深いから」では答えになりません。むしろ経営者は、根拠のないものに時間を使うことを最も嫌う人たちです。そこには、彼らにとって合理的な理由があるはずです。
心当たりのある研究を、3つ挙げます。
理由① 畏敬の念が、時間の感じ方を変える
心理学に「畏敬(awe)」という研究領域があります。大きなもの、古いもの、自分の理解を超えたものを前にしたときに起きる感情のことです。
ラッド、ヴォース、エイカーが2012年に『Psychological Science』誌で報告した実験では、畏敬を感じた人にこんな変化が現れました。
- 「自分には時間がある」と感じるようになった
- 忍耐強くなった
- 物を買いたいという欲求が下がった
- 他人のために時間を使う意思が高まった
- そのときの生活満足度が上がった
ここが重要なところです。経営者にとって最も希少な資源は時間であり、最も必要な能力は長期で考える力です。目先の数字に振り回されず、5年先を見て決める。それができる人が生き残ります。
そして畏敬は、まさにその「時間の感じ方」を書き換えます。
神社という場所を思い出してください。くぐる鳥居。長い参道。樹齢数百年の御神木。何百年も同じ形で建っている社。これらはすべて、人に畏敬を起こさせる装置です。意図してそう作られたのか、そう作られたものだけが残ったのかは分かりません。ただ結果として、神社は畏敬を生む条件をほぼ完璧に満たしています。
ピフらが2015年に報告した研究では、畏敬は「小さな自己(small self)」——自分は大きなものの一部にすぎないという感覚——を生み、他者を助ける行動を増やすことが示されています。
自分を小さく感じることは、敗北ではありません。目の前の損得から距離を取れる、ということです。
理由② 鎮守の森は、生理的にストレスを下げている
もっと身も蓋もない話をします。神社に行くという行為の実態は、「木々の中を10分ほど歩くこと」です。
千葉大学の宮崎良文氏らは、森林浴の生理的な効果を長年計測してきました。全国35か所・延べ420人を対象にした一連の調査で、森林を歩いた人は、都市部を歩いた人に比べて唾液中のコルチゾール(ストレスホルモン)が15.8%低いという結果が出ています。
都市に暮らしていると、まとまった緑に入る機会はほとんどありません。そして多くの神社は、都市のなかに残された最後の森です。「鎮守の森」という言葉がそのまま残っているとおり、社殿より森のほうが本体だという見方すらあります。
経営者は、慢性的にストレスの高い職業です。その人たちが、月に何度か森の中を歩いている。信仰の話を一度脇に置いても、それだけで説明がつく部分があります。
理由③ 迷いを、決まった手順に預けられる
3つめは、断定を避けて書きます。
「儀式にはパフォーマンスを上げる効果がある」という有名な研究がありました。歌唱や暗算の直前に決まった手順を踏むと、不安が下がり成績が上がった、という2016年の論文です。開運や習慣の記事でよく引用されています。
ただしこの論文は、著者のデータに関する調査を経て撤回されています。結論が間違いだと確定したわけではありませんが、根拠として使うことはできません。この記事では採用しません。
そのうえで、事実として言えることはあります。参拝には、完全に決まった手順があります。鳥居の前で一礼する。左側を歩く。手水で左手、右手、口、もう一度左手。二礼二拍手一礼。
経営者の仕事は、情報が足りないまま決めることの連続です。その人が、何ひとつ判断を求められない5分間を持つ。そこに意味を見出す人がいることは、想像に難くありません。
ただしこれは、いまのところ観察であって、証明された効果ではありません。
因果は、逆かもしれない
ここまで読んで「神社に行けば収入が上がる」と受け取られると困るので、はっきり書いておきます。
先ほどのデータは、相関であって因果ではありません。
平日の昼間に神社へ行けるのは、時間の自由がきく人です。旅先の一宮まで足を伸ばせるのは、金銭的な余裕がある人です。参拝が収入を生んでいるのではなく、収入が参拝を可能にしている——この説明でも、80%という数字は同じように成立します。
どちらが原因かを、この調査から決めることはできません。
それでも私がこの話を書くのは、試すコストがあまりに低いからです。近所の神社に行って10分歩く。かかるのは時間だけで、失うものは何もありません。
参拝の仕方が、少し違う
データではなく、見聞きした範囲での話として書きます。よく参拝する経営者の方々には、共通した作法があるように思います。
願わずに、報告する
「売上を伸ばしてください」ではなく「おかげさまで、今期はこうなりました」と伝えて帰る。願いごとを持ち込まない人ほど、長く通っている印象があります。
決断の前ではなく、後に行く
迷っているときに答えをもらいに行くのではなく、自分で決めたことを報告しに行く。神頼みではなく、覚悟の確認に近い使い方です。
同じ神社に、何度も通う
有名な神社を巡るより、決まった一社に通う。氏神や、事業所の近くの社を選ぶ人が多いようです。回数が積み上がることに意味を見ているという点で、これは貯金の考え方と同じです。
今日からできること
- 近所の氏神から始める。遠くの有名な神社より、歩いて行ける社のほうが続きます
- 月に一度、同じところへ。頻度より、同じ場所に戻ることを優先します
- 願うより、報告する。「今月もここまで来ました」で十分です
- 境内を10分歩く。参拝だけで帰らない。森の効果はここにあります
- 方角を意識してみる。どうせ行くなら、その日の巡りの良い方角にある社を選ぶ。吉方位の考え方はこちらに書きました
まとめ
- 会社役員・経営者の80.0%が寺社に行っており、職業別で最も多い(プラネット調査)
- 畏敬の念は「時間がある」という感覚を生み、忍耐強さと長期思考をもたらす(Rudd et al. 2012)
- 森林を歩くと、都市を歩くよりストレスホルモンが15.8%低い(宮崎ら)
- 「儀式で成績が上がる」という有名な研究は撤回済み。ここは断定できない
- 相関であって因果ではない。ただし試すコストは限りなく低い
出典
- 株式会社プラネット「意識調査 Fromプラネット Vol.90 <お寺・神社に関する意識調査>」planet-van.co.jp
- Rudd, M., Vohs, K. D., & Aaker, J. (2012). Awe Expands People's Perception of Time, Alters Decision Making, and Enhances Well-Being. Psychological Science.
- Piff, P. K., Dietze, P., Feinberg, M., Stancato, D. M., & Keltner, D. (2015). Awe, the Small Self, and Prosocial Behavior. Journal of Personality and Social Psychology.
- 宮崎良文ほか「森林浴の癒しと健康増進効果について」nippon.com インタビューほか
- Brooks, A. W. et al. (2016). Don't stop believing: Rituals improve performance by decreasing anxiety. OBHDP. ※撤回済みのため本記事では根拠として使用していません